カナダの国章(Wikipediaから拝借) |
しかし、近年になって、北極圏をめぐる各国の権益争いの顕在化を背景に、カナダの国土が北極海にも及んでいることを明示するために、もうひとつ"to coast"を追加して、"from coast to coast to coast"又は"from sea to sea to sea"という表現が特にカナダの政治家によって多用されるようになりました。カナダ政府がこの表現を用いるときには、北極圏におけるカナダのプレゼンス(存在感)を対外的に示す効果のみならず、国内的には、北極圏に暮らす先住民(イヌイット)への配慮を忘れていないというメッセージを込めていると言われています。
その一例が、今年のスティーブン・ハーパー首相によるクリスマス・メッセージです。最後の部分を引用します。
Friends, as Canadians from coast to coast to coast prepare for this joyous season, I want to wish you and your loved ones a safe and happy holiday, a very Merry Christmas, a Happy Chanukah and a prosperous New Year.
http://www.pm.gc.ca/eng/news/2013/12/23/christmas-greetings-prime-ministerこの"A Mari usque ad Mare"という表現の典拠は旧約聖書「詩篇」第72篇であり、"Et dominabitur a mari usque ad mare, et a flumine usque ad terminos terrae (He shall have dominion also from sea to sea, and from the river unto the ends of the earth)."が全文です。日本語では「彼は海から海まで治め、川から地のはてまで治めるように。」と訳されるようです。
また、この「詩篇」第72篇の表現は、1867年7月1日にコンフェデレーション(連邦化)を遂げた新生国家カナダが「ドミニオン・オブ・カナダ(Dominion of Canada)」という名前で始まったことにも深く関連します。連邦結成にあたって、Fathers of Confederationと呼ばれたカナダ人たちは「カナダ王国(Kingdom of Canada)」を新しい国にふさわしい呼称であると信じたようですが、英国からの反対、そして米国への配慮により「ドミニオン」に落ち着いたという経緯があります。
(参考ウェブサイトURL)
"A Mari usque ad Mare"について
http://www.thecanadianencyclopedia.com/en/article/a-mari-usque-ad-mare/
http://www.noslangues-ourlanguages.gc.ca/bien-well/fra-eng/vocabulaire-vocabulary/mariusque-eng.html
(追記)カナダのもうひとつの公用語である仏語ではどのように表現されているのか気になったので、上に引用したハーパー首相のクリスマス・メッセージの仏語版を調べてみました。
« Chers amis, alors que les Canadiens et Canadiennes d’un océan à l’autre se préparent à cette période de réjouissances, je tiens à vous souhaiter, à vous ainsi qu’à vos proches, de joyeuses fêtes, un très joyeux Noël, un joyeux Hanoukka et une nouvelle année prospère. »
http://www.pm.gc.ca/fra/nouvelles/2013/12/25/voeux-du-premier-ministre-loccasion-de-noel英語の"from coast to coast to coast"に相当する部分は"d’un océan à l’autre"(from one ocean to the other)であり、英語で追加された"to coast"は仏語には反映されていないようでした。
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